「私たちにはもう未来はありません。
でも、子どもたちには未来があります。
私たちはなにもいりません。
子どもの未来のために、学校を作ってください。」
バングラデシュ・シレットにある紅茶農園の村に住む一人のお母さんが私たちに語った言葉です。
夢を抱いた紅茶農園での暮らし
今から17年ほど前、ESAはシレットの責任者からある非常に貧しい村の支援要請を受けました。その村は紅茶農園の中にありました。
160年前、紅茶プランテーションを作るためにインド各地から数多くの貧困に苦しむ少数民族が連れてこられました。「茶農園で働けば収入も上がって豊かな生活が送れる」、そう夢を抱いて移住して以来、彼らは社会から隔離された茶農園で暮らしてきました。イギリス統治時代に保障されていた学校や病院も今はもうありません。しかも、家族で一人、お母さんだけしか茶摘みの仕事を許されていないため、報酬は一日わずか60円で、家族一日分のお米を買ったら何も残りません。茶農園の外は、言葉も宗教も違うイスラム教徒のベンガル人が9割を占める社会ですから、町で仕事を見つけることは不可能に近く、紅茶農園に生まれたら、貧しさを我慢して暮らす以外彼らの道はなかったのです。
母の願い
ESAはこの村の人々の生活改善に何か力になりたいと考え、村を訪ねた際、集まった村人たちに話ある問いかけをしました。
「私たちは皆さんのために何かお手伝いをしたいと思っています。皆さんに今、一番必要なことは何ですか?」
すると村の男性たちは口々に言いました。
「池は洪水になると泥水に浸かってしまって水が汲めなくなってしまう。井戸を作ってくれないか。」
「あぜ道が崩れてしまったんで直してほしい。」
「サイクロンで屋根が飛んでしまった。どうにかしてくれないか。」
男性は家の主として、家族が安全で安心して暮らせるために今目の前にある必要なことを訴えました。
そんな男性たちの話が終わると、あるお母さんが立ち上がって言いました。
「子どもの未来のために、学校を作ってください。」
このお母さんの力強い言葉に私たちは心を打たれました。
貧しさのどん底で苦しい思いをしたからこそ、彼女は人間が生きていく中で一番大切なことを悟ったのでしょう。教育を受けることこそ、この貧しさから抜け出す道であることを知っていたのです。
教育支援の始まり
ESAはこのお母さんの願いをかなえようと紅茶農園の村に、村人たちの言葉で学べる3つの学校を作り、子どもたちは差別を受けることもなく伸び伸びと学ぶことができるようになりました。
学ぶ機会を与えられなかった人々は、自分の生まれたままの環境を受け入れる以外、人生の選択肢はありませんでした。しかし、教育の機会を与えられた子どもたちは、紅茶農園で働く以外にも選んだ道を進む力を得て、自分たちの足で歩いていけるようになるのです。
子どもたちを支えるお母さんの力
「教育こそが子どもたちの未来への道」
この言葉を教えてくれたのが、紅茶農園で出会ったお母さんでした。
世界中どこの国のお母さんも、どんな境遇に生きるお母さんも、もちろんお父さんも、子どもたちの明るい未来を願わない親はいません。そんな子どもたちを想うお母さんの気持ちに少しでも応えたいと活動しているのは、私たちのようなお母さんでもあるのです。本当に小さな協力、小さな活動かもしれません。でも、子どもたちの未来を作る大きな力になる活動です。私たちESAの活動は、そんな世界のお母さんの気持ちを大切にする活動です。

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