2021年5月、ダージリン在住のESA卒業生、プレナ・タマング・チェトゥリさんとオンラインでつながる機会がありました。その時のお話をまとめましたので、ご紹介します。


両親を楽にしてあげるために、先生の道を


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ESAの卒業生、プレナ・タマング・チェトゥリさん


プレナさんの生い立ち

プレナさんのお父さんはタクシー運転手でしたが、プレナが小学校の時に重い病気にかかり、少しの収入で暮らす家族4人の生活は厳しいものでした。窓のない一間の家は、土間の床とトタン屋根で、雨が降ると水が入ってくるし、屋根の雨の音がうるさくて会話もできないほどでした。

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それでもプレナはとても明るい子でした。小学校に入学したときに買ってもらった、ぶかぶかの制服は、6年生になるころには長袖が半袖になり、何度も折り返してはいていたスカートもミニスカートになっていましたが、それを見てはいつも妹とけらけらと笑い合い、自分たちが貧しいことを悲しいと思ったことはなかったのです。
お父さんが病気がちで学費を払えなくなり、お母さんが学校でESAの教育支援の話を聞いて申し込み、高校卒業まで支援を受けて学業を続けることができました。


9年生の時に、自分が勉強で頑張って家族を支えていこうと心に決めたプレナは、村で低学年の生徒の家庭教師の仕事を始めました。学校から帰ると、夜8時まで何人もの生徒をもち、それが終わると、朝2時まで自分の勉強をして、ずっとトップの成績を守りました。しかし、大学2年のときに無理がたたり、食べることも歩くこともできないほど体を壊してしまいました。また、父親が癌になり、治療の為に知人からお金を借りるために奔走したこともありました。


ついに夢の実現

そんな様々な困難に直面しながらも、ついに3年前、給料の保障がある、夢の教職員試験に合格し、母校であるセントマイケル校の教師として採用されました。教師として後輩の指導にあたる喜びはひとしおでしたし、就職できたことで、年金のない両親の面倒をみることも、あきらめていた結婚も、夢だった、光の差し込む窓のある家も手に入れることができたのです。

プレナをここまで引っ張ってきたのは、両親への強い愛情でした。学校に行くこともできず、安定した仕事もなかった両親。年老いても年金のない老後。病気になっても治療費も払うことができなかった両親。そんな親を楽にしてあげるには、自分が公務員の資格をとるしかない。その意志の強さと努力は並大抵ではありません。
でも、彼女はとても明るく、そして、彼女をここまで支えてくれた人々への感謝を忘れませんでした。


小学校から彼女を支援してきたご夫妻と、オンラインで顔を合わせる機会を5月に設けました。プレナは小さい頃、このご夫妻から届く、唯一のクリスマスカードを、毎年心待ちにしていたのだそうです。初めて直に交流し、毎年交換してきた絵やクリスマスカードを見せ合い、感動の涙を流しました。



コロナ禍のダージリン

次にプレナより、コロナの中でダージリンの様子について、伺いました。

2020年3月、新型コロナ感染拡大防止のためにロックダウンが始まり、ダージリンでも学校は休校、町は観光業が打撃を受けて、茶農園労働者以外は収入の道が途絶え、厳しい状況に陥りました。しかし、交通の便が悪いという立地や、観光客が入ってこなかったため、2021年2月までは感染者はごくわずかで、住民は事態の深刻さをあまり実感することはありませんでした。学校もオンライン授業のほかに、週1回の登校日が設けられ、学校は生徒たちに政府からの援助米を登校時に配布するなどして、継続して教育ができるようつとめてきました。
ところが、ヒンズー教の最大のお祭りや選挙の開催をきっかけに、インド全土で感染が爆発的に広がり、新規感染者が一日40万人にのぼると、ダージリンも安心できる状況ではなくなってしまいました。


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プレナが働くセントマイケル校でも、教科ごとに教師が独自のオンライン授業を行っています。もちろん生徒全員がスマートフォンを持っているわけではないので、持っている生徒や教師の家に集まったりして継続的な学習をサポートしています。中には、学校に登録されている電話番号が、遠くに住む親戚のもので、全く連絡が取れず、授業を受けられない生徒もいました。

whatsappというアプリを使って、教師は毎日手作りのプリントの写真と音声による説明を生徒に送り、生徒をそれを拡大しながら書き写し、音声を聞いて勉強します。課題や試験も同様の方法で取り組み、答案用紙の写真を撮って先生に送ります。先生はそれを添削し、また送り返します。プレナは5年生の算数、8~10年生の科学を担当し、週に10コマの授業をおよそ400人の生徒に行っています。




紅茶農園の子どもたちに愛情を注ぐ

紅茶農園の子どもたちの中には、学習意欲があまり上がらない子どもたちもたくさんいます。その要因として、プレナは、親からの愛情不足を挙げています。生活のため、朝早くから晩まで仕事に忙しく、子どもと過ごすゆとりがありません。子どもたちは愛されているという実感がないため、心が不安定です。そのため、勉強意欲がなく、向上心も低い。若年結婚、短絡的な交際、音楽やダンスなどの娯楽への関心、将来の夢を持てない、、、などの悪循環が起こります。

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プレナは、子どもたちがコロナ禍でも、学校から離れぬよう、手間はかかりますが、オンライン授業を続けて子どもたちに精一杯の愛情を注ぐことが、子どもたちの成長に光をもたらす、と強く感じています。自分が、これまで日本のご夫妻や周りから愛情を受けてきたように、、、。




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